最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)288号 判決 1950年7月19日
主文
本件各再上告を棄却する。
理由
弁護人海野普吉、同位田亮次の上告趣意第一点について。
論旨は原判決は憲法第三一条に違反すると主張するけれども、所論の内容は原判決のした刑法乃至刑罰法規の解釈適用を誤っていると主張するか、又は原判決の前提となった第二審判決の事実認定乃至証拠判断を非難するかに帰し、実質においては憲法違反の問題ではないから、これを以って再上告の適法な理由とすることができないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一八八号同年七月七日大法廷判決、昭和二三年(れ)第四四六号同年七月二九日大法廷判決)に徴して明らかである。
同第二点について。
昭和二〇年勅令第五四二号「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」及び右勅令に基いて制定された勅令が、所論昭和二二年法律第七二号日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律第一条の二の規定にかかわらず新憲法下においても有効であることは、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二七九号同二三年六月二三日大法廷判決)に示されているとおりである。従って、右昭和二〇年勅令第五四二号に基き制定された昭和二〇年勅令第五七七号及び昭和二一年勅令第二七五号が昭和二三年一月以降失効したとの論旨は理由がない。
第三点について。
当該裁判をした裁判所の公判廷でした被告人の自白は憲法三八条三項にいわゆる本人の自白にあたらないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決、昭和二三年第一五四四号同二四年四月二〇日大法廷判決)に示されているとおりである。論旨は理由がない。
弁護人定塚道雄上告趣意について。
憲法三七条二項は、裁判所の職権により又は訴訟当事者の請求により喚問した証人につき反対訊問の機会を充分に与えなければならないというのであって、被告人に反対訊問の機会を与えない証人その他の者(被告人を除く)の供述を録取した書類は絶対に証拠とすることは許されないという意味を含むものではない。従って刑訴応急措置法一二条において、証人その他の者(被告人を除く)の供述を録取した書類は、被告人の請求があるときはその供述者を公判期日において訊問する機会を与えればこれを証拠とすることができる旨規定し、検事の聴取書の如き書類は右制限内においてこれを証拠とすることができるものとしても、憲法三七条二項の趣旨に違反しないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷判決参照)。しかも本件記録によれば原判決も説示するように、所論検事の聴取書の供述者である中島幸好については、第二審第二回公判期日に被告人中木村忠一の弁護人伊井豊石から証人として訊問を請求し裁判所之を却下したが、同第三回公判期日に同審相被告人禰津憲市朗の弁護人世良田進から右中島を在延証人として訊問の請求をなし裁判所はこれを許容して同人を訊問して居り、その訊問の際には被告人中木村忠一は同一公判廷に出頭していたのであるから、同被告人にも、右証人を反対訊問する機会は十分に与えられたものである。故に論旨は全く理由がない。
仍って旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決中弁護人海野普吉、同位田亮次上告趣意第一点に関する裁判官斎藤悠輔の意見は、同点の判示に引用の各大法廷判決に夫々記載のとおりであり、
同第三点に対する裁判官斎藤悠輔の補足意見、裁判官塚崎直義、同沢田竹治郎、同井上登、同小谷勝重の少数意見は同点の判示に引用の昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決に記載のとおりであり、裁判官穂積重遠の少数意見及裁判官真野毅の補足意見は前掲昭和二三年(れ)第一五四四号同二四年四月二〇日大法廷判決に記載のとおりである。
以上補足意見、少数意見を除き、この判決は裁判官の一致した意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)